ねずの番


 昔あるところに、とても仲のいい百姓と坊さんと床屋がいた。
 ある時、三人がそろって旅にでかけた。宿につくと床屋が
「和尚さま、田吾(たご)さ、この部屋はなんとなく物騒だから気をつけろや」
 といいだした。
「どうしてだえ」と田吾さが聞くと、
「さっき変な男がジロジロとこの部屋をのぞきこんでいたで、きっと夜中に何か盗みにくるにちがいない」
 と床屋が神妙な顔でいった。
「それじゃあ、三人が交代でねずの番をすればいいじゃ」
 と坊さんがいいだすと床屋がすぐ
「それがいい、それでは和尚さんと田吾さが起きている時には私がねていて、私がねている時には和尚さんと田吾さが起きていればいい」とすましていうと、田吾さはしばらく目をパチパチさせて考えていたが、やっと床屋の計略に気づき、
「それじゃあ、お前さんはいつもねていて、おらたちは少しもねらねえじゃないかね」
 と、目をむきだしていうので床屋も頭をかいてごまかした。虫のいい床屋の計略だったが、見破られてはしかたがない。
「それでは」ということで、くじを引いてきめることにした。くじ引きの結果は床屋が一番、百姓の田吾さが二番、和尚が三番と決まった。
 一番くじを引いた床屋は、しかたなくひとりで起きていたが何もすることがなく、退屈して時間をもてあましていた。
「ふたりともいい気持ちでねているなあ、じっとしていてもしょうがないので、この間にひとつ田吾さの髪でも剃っておいてやろう」
 というと、荷物の中から商売道具の毛剃りをだしてゾリゾリと田吾さの頭を剃り始めたが、なにしろ眠くてしかたがない。つい、大切なマゲまで剃り落としてしまった。「しまった」と思ったが、もうどうしようもない。床屋は、
「えい、こうなったらしかたがない、いっそのこと丸坊主にしてしまおう」
 と、田吾さの頭髪をすっかり剃り落としてしまった。しばらくして交代の時間がきたので床屋が、
「田吾さ、田吾さ、こんどはお前の番だで起きろや」
 と、いい気持ちでねている田吾さをゆり起こすと、田吾さはしぶしぶ起きてツルツルになっている自分の頭をなでながら、
「やあ、おかしな床屋さんだで、おらと坊さんをまちがえて起こしたに、やれやれ」
 といって、また布団にもぐりこんでしまった。
 床屋は田吾さのマゲを落としてしまったこともあって、それ以上田吾さを起こす気にもなれず、しかたなく一晩中ねずの番をするはめになってしまった。

小沢さとし