庄屋のむすこは、わるさがすぎる。
　きょうも、飯田(いいだ)へのつかいの行きがけ、よそんちの柿をもぎとってふところへため、投げちらかしちゃあ歩くんな。
　その庄屋のむすこが、村をはずれて原っぱへ出ると、日なたのかれ草に、キツネがいいきもちでねとるのをみつけた。よしゃあいいに、かじりっかけの柿をぽーんとなげると、それがあたっちまった。
　キャウンッと、とびあがったキツネは、びっくりこいてかけまわり、そのまんま、まあるくなって山ん中へにげてった。
　こりゃあおもしろかったと、庄屋のむすこが、きげんよく飯田のつかいをすませた帰り道。行きがけの原っぱまでくると、いつのいままで明るかったのが、にわかに暗くなって、夕立雨まで落ちだした。さあこまったと、道をいそぐと、むこうから、
　チンボンジャラン　チンボンジャラン
　おそうしきの列が来るじゃねえかな。
　おっかなくなった庄屋のむすこは、ほかに行き場もねえもんで、道をはずれた松の木にのぼりこんで、やりすごすことにしたんな。
　ところが、ちょうちんぶるさげたおそうしきの列は、松の木の下まで来ちまった。
　チンボンジャラン　チンボンジャラン
　木の下で、ぐるぐるまわられりゃあ、庄屋のむすこは、もうぶるぶるな。目えつぶってこつい松の木にしがみついとると、ようやくチンボンジャランの音が遠ざかっていった。
　おっかなびっくり目えあけてみると、えらいことにな、木の根もとにかんおけを置いて行っちまったじゃねえかな。おまけに、そのかんおけのまわりに、火のはいったちょうちんをつくねてあるんな。
　たまったもんじゃねえ、ちょうちんのあぶら紙がめらめら燃えて、かんおけに燃えうつる。かんおけのタガがパチンとはぜると、ガラッガラッとこわれた中から、白いきものの死人がスーッと立ちあがった。
　死人は、目のつりあがったうらめしい顔で、庄屋のむすこを見上げると、
「一のえだに手がとどくぞー」
　ほねとかわばっかの、まっ白な手をのばすんな。庄屋のむすこは、たまらず松の木の先にかき上がる。死人の手が、一のえだをつかむと、
「二のえだに手がとどくぞー」
　もう片ほうの手がのびてくる。
　庄屋のむすこがどこまでにげても、
「手がとどくぞー」
　死人の白い手が追いかけてくるんな。
　てっぺんのえだまでしがみついた庄屋のむすこは、かんねんして、ボキッとおれたえだもろとも、まっさかさまにころげ落ちたんな。
　おそるおそる目えあけると、なんてことはねえ、そこはまだあかるいもとも原っぱな。キツネが、コーンッとうれしそうにはねると、ススキをゆらして山ん中へけえっていったと。

いぶき彰吾