浅間の前掛山(まえかけやま)


 富士山と浅間山はきょうだいだ。日本一高いけど富士は妹。浅間が姉だ。
 むかし、むかし、姉の浅間が妹の富士にむかっていった。
「妹のおまえが、姉のわたしより高いのが気にいらない。なんとかしなさいよ」
 おとなしい富士は、きしょうのはげしい浅間にしたがうことにした。
「なんとかしなさいって、どうすりゃいいの」
「いいね、前かけに、お前のみねの砂をいっぱい入れて持って来て、私のみねにあけるのよ」
「いいわ、そうするわ。でも、前かけはあるけど、どうやって運んだらいいでしょう」
 このやりとりを、浅間と妙義の谷間で昼ねをしていた、大男のでいらん坊が聞きつけた。「おいらの山が、日本一になるんだな。よし、おいらが運んでやらず」
 でいらん坊は、富士が渡してくれた前かけをかけ、両はしを合わせてにぎって、みねの砂をいっぱいに入れた。
「さ、いっぺになったで、帰るとするか」
 でいらん坊は、来たときの足跡をぎゃくにふむようにして、佐久へもどった。
「はい、富士の砂だよ。見て!」
 でいらん坊は、前かけのはしをにぎった手を少し下げて、中が見えるようにした。のぞき込んだ浅間が、「これぼっち!」とさけんで、砂の入った前かけをおもいきりたたいた。  でいらん坊の手から、前かけのはしがぬけ、中の砂がドドドーッと落ちた。
 砂は、浅間のみねより少しさがったところに、山をつくった。これが前掛山である。
「これだから、姉さんにはこまってしまう」
「短気で悪かったわね。もうだれにもたのまないわ。自分の力で日本一になってみせる」 浅間は不まんを一気にばくはつさせた。ふきあがった灰や砂が降り、溶岩が流れ出て、山は少し高くなった。
 ド、ド、ドーン。ド、ド、ドーン………
 姉の浅間山は、今も噴火をつづけている。

大日方寛