森のモクベエ


 むかしむかしの話です。
 森村にモクベエさんがおりました。
 モクベエさんは猟師でしたが、たいへん貧乏だったので、持っている鉄砲ときたら、曲がったようなへなちょこ鉄砲。出てくる玉も、へなちょこで、へなへな、くねくね。どこへいくやらわかりません。
 獲物をねらっても、ろくに当たったためしがありません。
 そんな具合だったので、カモもウサギも、モクベエさんを見ても知らん顔。逃げようとさえしないのでした。

 ある朝のことです。モクベエさんが森の池(木崎湖)を見ますと、カモが十羽、への字に並んで泳いでいました。
 モクベエさんは急いで鉄砲をかまえると、ずどんと、カモをうちました。
 タマは、へなへな、くねくね、曲がって飛んでいくと、最後に、
  ビュ???ン
と、への字に曲がって、カモの列に当たりました。
 への字に並んでいたカモは、みんなはじから羽を撃ち抜かれて、十羽とも水にひっくり返ってしまいました。
 タマはそのまま飛んでいって、向こう岸の山で昼寝をしていたウサギの後ろ足にあたりました。
 ウサギは、びっくりしてとび上がろうとしましたが、後ろ足を撃たれて動けません。
 前足をいっしょうけんめい動かしたので、地面がほれてしまいました。
 すると中から、長芋が顔を出しました。
 ちょうどその時です。モクベエさんの目の前へ、綱の切れた和舟が一そう、ぷかりぷかりと浮いてきました。
 「こりゃ、ちょうどいい」
 モクベエさんは舟に乗り込むと、ギッチラ、ギッチラこいでいって、カモを十羽ひろい上げました。
 そしてまた、ギッチラギッチラこいでいって、向こう岸につきました。
 長芋のつるでウサギをしばってから、そろりそろりと長芋をほってみると、舟の丈ほどもある長いでっかい芋でした。
 カモに、ウサギに、長芋と、いっぱい舟につみこんで、
 モクベエさんは、家に帰っていきました。
  ギッチラコ ギッチラコ
  ギッチラコ ギッチラコ

石原きくよ